基調講演

『困難ケースとは何か?』

−援助者の都合ではなく、本当に困難なケースとは−

講師:甲子園大学現代経営学部医療福祉マネジメント学科 助教授 長田貴 氏

 

◆困難ケースを考える材料 (月刊ケアマネジャー2002年12月号より抜粋)

○困難だと感じるケース:痴呆、独居、援助拒否(支援を拒否する)、虐待、経済困難、

介護放棄、家族あるいは介助者が精神障害などの障害を有している←外側に対して困難

と感じる要素

家族と信頼関係を築けない等←援助者自身が感じている、援助者の中にあるもの

 

○困難を生み出している原因

・利用者の環境(家族と本人の関係、世帯環境、経済力、病状等)

・ケアマネジャーの力量

・社会・制度・サービス(外的資源)

・利用者の認識(利用者がどう理解をして、どう感じているか)

 困難だが、自分自身の力量も不足していると感じているケアマネジャーが多い。

 

     状況改善の方法 (個別性があるので、一概には言えないが)

サービス事業者に相談、利用者・家族と話し合う、行政に相談、サービス担当者会議、

職場(上司・同僚)で相談、地域ケア会議、主治医に相談する等。

 

◆困難ケースとは何?

「思うように支援が展開しない場合」

利用者・家族と話をしながら支援していく内容が、自分の枠組みの中で考える理想と合

致しないケースを困難ととらえれば、困難ケースはたくさん出てくる。それは、個人の

価値観や、感情をもの差しにしている(個人的動機)危険性がある。自分の価値観とか、

社会的通念で判断してはいけないという原則。利用者側からすれば、自分で判断して、

自分で決めたいという基本的な人間の欲求と矛盾することになる。

 

「手に負えないという場合」

個人的動機ではなく、社会的責任を持ってやっているが、それでもどうしようもなく、

手に負えないという場合、3つの要素がある。

@援助者自身の力の限界

Aケース自体の力の限界

B外的資源の限界

 

@援助者の限界を考える

・キーパーソンを支援していくという視点が持てているかどうか。

・虐待を防いでいこうという心理が先に働く傾向になって、虐待者と被虐待者という無意

識の視点になってしまっていないか。

・何かあった時にだけ連絡をしているという状況が家族に逆にストレスを与えているので

はないか。

 

できないことではなく、できることを見ていこうというプラスの考え方

「○○ができない」ではなく、「○○したい」ととらえよう。その「したい」という言葉

は、援助者が言葉を作るのではなく、本人の言葉でなければならない。

できない所は、ひとくくりで見てしまう傾向があるが、できる所を見ていこうとしたら、

細かい所まで見ないと分からない。本当は力があるのに、それを封印してしまうような状

況を作ってはいけない。

依存状況の人も、困難ケースとして全体にとらえることは危険性がある。

依存は自立心に欠けるのではなく、自立過程のための一つの力としてとらえることができ

る。

 

A限界に対する対応を考える

 自立支援や、QOLの向上の本質は、人が生まれてきて、生きていくための権利を守り、

維持し、その回復を目的としている。

 

<マズローのニーズ階層>    

 


     自己

     実現       ⇒生きがいなど、充実した人生の実感

     尊 厳       ⇒役割、外部からの認知

    社会的       ⇒集団に属する(最小の社会は家族)

    安全・保障     ⇒安全な生活の継続性と経済的保障など

     生存権      ⇒命、そして、それを維持するための衣食住の確保など

           人間が生きていくための最低限必要な欲求。強制や管理が伴ってで

も守られるべきは命である。緊急性が高く、医療場面の要素が非常に

入ってくる。

 

対人援助の基本は、人間がすべて持っている根本的な権利、欲求を守ることを基盤とし、コミュニケーション(面接)によって関係を構築し、支援を行っていくことである。それができているかどうか自己検証していく必要がある。

 

Bケース自体の限界と外的資源の限界と、その対応を考える

社会資源 ●内的資源(本人の力、家族の力)できる所を見ていくということ。

●外的資源(フォーマル、インフォーマルを含めた利用できる外側の全ての

資源)

行政は制度運営をするバックアップ機能。

本人が抱える生活課題に対して、本人・家族が内的資源を活用しても解決できないとい

った時に、初めて我々は外的資源を活用し、補完的にサポートしていく。

 補完していく力=制度、サービス、必要なシステムの検討等。

 

困難だと考えているケースに対して、自分が困難を作っていないか、支援をしていく中で、逆にストレスを与えていないか検証したうえで、支援の必要があり、補完しているが、これ以上の補完力が周りにどうしてもないといった時にどうするか。それが本来の困難であろうと考えられるケースになっていく。

 

フォーマルサービス = 介護保険制度のような目に見えるサービス。守られるべき一定

の基準がある。安定していて、責任が伴う。融通は利きにくい。

インフォーマルサービス=自然に形作られるサービス。家族や地域の人たち、親戚友人関

係。一定の基準はない。不安定。融通は利きやすい。

 

チームアプローチ・連携=それぞれの担当者が課題を共有しながら、専門性をもって補完

し成り立っている。

チームアプローチの中には本人、家族も参加していることを忘れずに。

外的資源の補完力の限界はサービス提供者の個別性によって差がある。

今後は、ネットワーク・連携(個別支援)の限界を地域課題としてとらえ、行政等のシ

ステムや資源の開発につなげていく必要性がある。